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東京地方裁判所 昭和27年(ワ)4417号 判決

原告 大和糧穀卸販売株式会社

被告 松坂亀之助

主文

被告は原告に対し金七万九千二百八十三円及び内金六万八千八百十七円に対する昭和三十年三月十七日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

原告其の余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金六万八千八百十七円及びこれに対する昭和二十七年六月十三日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、其の請求原因として、原告及び被告は米麦等の販売を業とする商人であるが、原告は被告に対し昭和二十七年三月一日より同年四月十一日まで米及び麦製品を売掛けたところ、その代金中金六万八千八百十七円につき遅くも昭和二十七年四月三十日全額弁済期が到来したにかかわらず被告はその支払をしない。

よつて被告に対し右残代金及びこれに対する支払命令送達の翌日たる昭和二十七年六月十三日より完済に至るまで商法所定年六分の割合による損害金の支払を求める。

と陳述し、被告の抗弁に対し

被告の抗弁(一)の事実中別紙〈省略〉計算書記載の如く原告が被告に対し、内地米、外米、押麦、小麦粉を売渡したことは認めるが、被告主張の減量の事実及び減耗分入金の事実は否認する。

原告会社が被告に一部代金を払戻した事実はあるが、減量を認めて払戻したのではない。すなわち、昭和二十六年五月一日から主要食糧の配給が公営から民営に移管され卸売業制度が発足して間もない同年六月上旬原告会社に登録している小売販売業者を以て組織する組合の幹部より、卸売商は利益が多いから減量の気持で組合員に利益金の一部を払戻して貰いたいとの申出があつたから、原告会社においても次期の登録替の際に他の卸売業者に移動されることをおそれ、その引留策にサービスとして、内地米一俵十円、外地米一袋三十円の割合を以て、全組合員に減量の有無にかかわらず、組合員が原告会社より買入れた数量に右金額を乗じて得た金額を払戻す契約を為し実行し来つたもので被告主張の減耗分入金はこの払戻金であつて減量に対する払戻金ではない。従つて原告会社が減量を認めて居るものではない。

原告会社から被告に販売する玄米は、食糧事務所の倉庫において原告会社の運送人が受取つたものを自動車に積み被告の店舗に直送するものであつて、一旦原告会社に引取り更にこれを被告の店舗に運送するものではなく、この意味においては原告会社はいわゆるトンネル事務を採るに過ぎないものである。

原告会社は被告の店舗において被告に何等の異議なく米麦等が授受されたときは其の時を以て責任は解除されるもので、若し授受の際乱俵元不足等があり被告より異議の申出があれば値引或いは換俵の措置を採るべくそれ以後は原告の責任はない。

若し被告主張のような減量があつたとすれば、配給の際における秤り込みか或いは何等かの作為に出でた減量と解する外なく、その責は被告にあり、原告会社の負担すべき筋合のものではない。

又被告主張の目減率は全国画一的に目減の取扱処置の標準を定めたものであつて、卸商から小売商が買受けた数量より当然値引きさるべき割合ではない。仮に被告主張の如き減耗分支払義務があるとすれば、被告主張の日までに計算支払を為すべきものであることは認める。

被告の抗弁(二)は認める。

と述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実はこれを認める。と述べ、

抗弁として、

(一)  米穀類の配給に当り、政府は生産地倉庫より出荷された侭の現物を卸商に払下げ、卸商は小売商店頭にこれを送荷して販売するのであるが、運送業者に依頼して食糧事務所倉庫より直接小売商まで搬入する所謂トンネル操作を行つているため、其の現物は生産地倉庫集積時の鼠害、乾燥、輸送中における漏失等に因り内容量が必然的に正味六十瓩に欠けている減量俵である。

これがために政府は左記目減率を基準としてこれに相当する価格換算をなし目減の損失を金額面において補填するように政府売却価格を決定している。

卸売業者が玄米を搗精して小売商へ販売する場合  〇、七%四二〇瓦

卸売業者が玄米を小売商に販売する場合      〇、四%二四〇瓦

卸売業者が産地精米を小売商に販売する場合    〇、七%四二〇瓦

卸売業者が米穀以外のものを小売商に販売する場合 〇、二%一二〇瓦

卸売業者の販売価格の統制額は正味六十瓩の建前になつている。従つて卸売業者がこれに欠けたものを販売する場合にはそれに相当する金額を差引いた価格しか要求できない。然るに卸売業者は一俵六十瓩として代金を回収するから、小売商に減耗分相当金額を計算支払を為すべきものである。

被告は原告より本件商品を買受けるに当り、右商品の引渡については運送業者が被告方に運搬するのみで原告会社々員が立会したことはなく又被告から原告に対し商品の到着次第直ちに計量の立会を求めたが応じなかつた。

然るに被告が原告から昭和二十六年三月二十四日から昭和二十七年三月二十七日迄の間に買受けた内地米、外米、押麦、小麦粉につき、別紙計算書のとおり、玄米〇、四%、内地米白及び外米〇、七%、麦製品〇、二%の減耗を生じ、被告は減耗分中一部入金したが尚残金三万四百三十八円の支払をしない。

右減耗を商品別にすると左の通りである。

(1)  内地米減耗分 金二万四千六百三十九円

内入金分   金四千百九十円

差引     金二万四百四十九円

(2)  外米減耗分  金一万二千三百六十八円

内入金分   金五千七百九十円

差引     金六千五百七十八円

(3)  押麦減耗分  金二千百二十三円

(4)  小麦粉減耗分 金千二百八十八円

合計     金三万四百三十八円

右減耗分については商慣習に基き遅くも昭和二十七年四月末日迄に計算支払うべきものである。

(二)  原告は被告に対し其の販売量に対し一定率の奨励金を交付する約定になつているが、原告は右奨励金九百二十五円を未だ被告に支払わない。其の弁済期は昭和三十年三月十七日に到来した。

(三)  よつて被告は本訴において被告の債務と前記(一)、(二)の債権と対当額につき相殺する。従つて原告の本訴請求金額六万八千八百十七円から右(一)、(二)記載金額を差引き、被告は原告に対し金三万七千四百五十九円の支払義務があるが、これを超過する原告の本訴請求は失当である。

と述べた。〈立証省略〉

理由

原告及び被告が米麦等の販売を業とする商人であること、原告が被告に対し昭和二十七年三月一日より同年四月一日まで米及び麦製品を売掛け、その代金中金六万八千八百十七円につき遅くも昭和二十七年四月三十日に全額弁済期が到来したにかかわらず、被告がその支払をしないことは当事者間に争いがない。

そこで被告の抗弁(一)につき判断する。

原本の存在並びに成立に争いなき乙第三号証、証人高瀬甚七、同尾崎桂作の各証言の一部、証人斎藤誠、同山田新之助、同宮坂武夫の各証言を総合すると、米麦等の卸売業者の販売価格の統制額は一俵正味六十瓩建前となつていて、卸売業者が正味六十瓩に欠けたものを販売する場合にはそれに相当する金額を差引いた価格しか要求できないこと、政府買入の際は検査の上一定量目あるものを受け入れるのであるが、政府の倉庫に格納後卸売業者の手を経て小売業者の店頭に至るまでの間において、鼠害、乾燥、運搬中の震動、鉤穴からの零落、抜き取り等の原因により減量を生ずる場合があり、更に小売業者から消費者に配給するまでの間においても搗き減り、秤り込み等の原因により減量を生ずる場合があること、これがため本件売買当時一卸業者段階における目減処置として、玄米にて買受けて卸売業者がとう精して小売業者に販売する場合には〇、七%、玄米にて買受けて玄米のまま小売業者に販売する場合〇、四%、精米にて買受けて小売業者に販売する場合〇、七%、米殼以外の場合〇、二%、(二)小売業者段階における目減処置として、玄米にて買受けて販売する場合〇、五%、精米にて買受けて販売する場合〇、二%、米殼以外の場合〇、二%、の各目減率を基準としてこれに相当する価格換算をなし、目減の損失を金額面において補填するように政府売却価格及び卸業者の販売価格を定めていたこと、右の目減量の算定は食糧配給公団が政府より政府の指定場所において買受けた食糧を配給するまでの過程に生じた実績を基礎にしたものであること、卸売業者より小売業者に販売する場合本来は実物看貫の上正味量の価格を支払う建前であるが、大量を短期間に迅速に配給する必要上、又実際の取引においては政府倉庫より卸売業者専属の運送屋が小売業者に運搬引渡す関係上、小売業者が卸売業者立会の下に全部につき一々看貫して引渡を受けることは事実上不可能の状態にあること、前記目減率は劃一的な数字であり実際の減量とは一致しないところ、小売業者は消費者に対し配給した数量、従つて卸売業者段階及び小売業者段階を通じた減量を知ることができるが、取引の実情が前記のとおりであるため、卸売業者段階における現実の減量は不明であつて、これを如何にするかは、卸売業者と小売業者間において協議の上前記目減率の範囲内において一定率により価格を差引き問題を解決した実例もあり、本件当事者間においても暫定的取極めとして、玄米一俵に付十円、白米一俵に付二十一円、外米一袋に付三十五円と協定し実行し来つたことが認められる。証人高瀬甚七、同尾崎桂作の各証言中右認定に反する部分は措信し難い。

右認定の事実によると、小売商の店頭における授受の際小売業者が異議を述べなかつた事実により減量に対する卸売業者の責任がなくなるものではなく、卸売業者は小売業者に対し卸売業者段階における減量に対し相当額の減価を為すべき義務あるものと解すべきであるが、減量の有無にかかわらず当然前記目減率により価格を差引く義務あるものとは解し難い。尤も取引の実情が前認定のとおりであるから、小売業者をして、卸売業者段階における現実の減量を立証させることは無理であろう。しかしながら、小売業者は現実に配給した数量によつて卸売業者段階及び小売業者段階を通じた減量を知ることは可能であるから、小売業者か卸売業者に対し減量に因る価格の差引きを求めるには、少くとも右両段階を通じた減量を立証すべき義務があり、但し各段階における現実の減量は知り得ないから、前記目減率の按分比例により各段階の減量を推定算出すべきものと解するを相当とする。

然るに、別紙計算書記載のとおり原告が被告に対し、内地米、外米、押麦、小麦粉を売渡したことは当事者間に争いがないけれども、被告には右売買に関し単に前記目減率相当の減量があると主張するのみで、何等減量の事実を立証しないから被告の抗弁(一)は到底援用に値しない。

次に被告の抗弁(二)の事実は当事者間に争いがないから、原告は被告に対し金九百二十五円を支払う義務がある。

従つて、被告が相殺の意思表示を為した昭和三十年三月十七日において、被告が原告に対し負担する債務金六万八千八百十七円及びこれに対する支払命令送達の翌日であること記録上明かな昭和二十七年六月十三日以降原被告双方の債権の相殺適状の前日である昭和三十年三月十六日まで商法所定年六分の割合による損害金一万一千三百九十一円中右損害金と原告の被告に対する債務金九百二十五円と対当額において相殺せられ、金六万八千八百十七円と右損害金の残金一万四百六十六円との合計金七万九千二百八十三円及び内金六万八千八百十七円に対する昭和三十年三月十七日以降完済に至るまで商法所定年六分の割合による損害金の支払を求める限度において原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条但書、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福島逸雄)

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